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誤嚥による死亡事故を介護施設に責任追及できるのか?

誤嚥による死亡事故を介護施設に責任追及できるのか?
弁護士 赤井 耕多

弁護士 赤井 耕多

千葉県弁護士会

この記事の執筆者:弁護士 赤井 耕多

誤嚥・転倒事故のご相談をきっかけに、7年前から介護事件に注力。全国的に、この分野に詳しい弁護士が少ないことを知り、誰かの助けになればとの思いで日々勉強中。現在、関東一円や、時には新潟からのご相談まで、幅広い地域をカバー。千葉医療問題研究会所属。

介護施設で発生する死亡事故では、「誤嚥」を原因とするものが目立ちます。
私達が普段食べている食品でも、高齢者や障害者にとっては飲み込みが困難なものがありますし、判断能力の低下から食品ではない異物を飲み込んでしまうケースもあります。

介護施設側には、そのような事態が生じないように食事などを介助・付添・監視することが求められていますが、不幸にして死亡事故が発生してしまった場合、慰謝料などの損害賠償請求を求めることができるでしょうか?

1.高齢者の死亡事故の原因は「誤嚥」が最も多い

1-1.高齢者の救急搬送数:誤嚥事故は第2位

東京消防庁のデータによれば、2016年に救急搬送された65歳以上の高齢者数(72,198人)のうち、全体の8割(58,351人)は「転倒・転落」事故によるものですが、次に多いのは「ものが詰まる等」の事故による救急搬送者1,703人です(※1)。

この「ものが詰まる等」による事故は、全体数に占める割合は低い(約2%)ものの、入院を必要とする状態以上の症状であった者が過半数(52.3%)を占め、いったん事故が発生すると、重い症状となる危険があることがわかります。

1-2.高齢者の不慮の死亡事故:最多は誤嚥等の窒息死

厚生労働省の分析によれば、2007年から2016年までの10年間において、不慮の事故による65歳以上の高齢者の死亡者数の最多は、「転倒・転落」や「交通事故」などではなく、「誤嚥等の不慮の窒息」を死因とするケースです(※2)。

高齢者の誤嚥事故は、短時間での窒息死や、重篤な症状に繫がりやすい誤嚥性肺炎を発症させる、危険な事故なのです。

※1、※2:消費者庁 News Release(平成30年12月26日付)
「御注意ください、高齢者の窒息事故!-お正月の餅の窒息に注意-みんなで知ろう、防ごう、高齢者の事故③」、同別紙1「高齢者の事故の状況について『人口動態調査』調査票情報及び『救急搬送データ』分析」(平成30年9月12日付)

2.食品の誤嚥について

誤嚥は、食道を通って胃に入るべき飲食物が、気管・気管支・肺という「気道」に入ってしまうことです。
高齢者に誤嚥が発生しやすい原因として、主に次の諸点が指摘されています。

  1. 唾液の減少、歯の欠損などで、食物を噛み砕き、飲み込み易いかたまりとすることが困難
  2. 飲みこむ際に気道を閉ざす反射運動(嚥下反射)の衰え
  3. 認知症などで、過度な分量の食物を口にいれてしまう

前記東京消防庁のデータによれば、高齢者の「ものが詰まる等」の搬送者数は、男女ともに、食品を詰まらせた者がもっとも多数とされています。

具体的には、詰まらせた食品名が判明している食材として、おかゆ類、餅、御飯、肉が挙げられています(平成28年の場合)。

3.食品以外の「異物」の誤嚥について

高齢者による喉に詰まらせる等の事故は、食品の誤嚥だけに限りません。認知症などによって、食品以外の「異物」を飲み込んでしまう事故もあります。

同じく前記東京消防庁のデータでは、包み・袋、薬剤等、入れ歯、洗剤等が多い事例として挙げられ(平成28年の場合)、日常生活でよく使用するものを誤って誤飲してしまうことが事故につながると指摘されています。

4.誤嚥の死亡事故は介護施設に損害賠償請求できる

介護施設において、食品や異物の誤嚥事故が発生し、利用者が死傷した場合、利用者やその家族・遺族からの介護施設側に対する損害賠償請求が認められるケースは少なくありません。

介護施設側は、利用者・家族との間で、介護サービスの利用契約を結んでおり、利用者の生命身体の安全に配慮するべき義務(安全配慮義務)を負担していますから、誤嚥事故の発生を予見できた場合には、事故の発生を回避する方策・措置をとるべき注意義務があります。

具体的には、例えば、次のような注意義務です。

  • 被害者(利用者)の嚥下障害の有無、障害の程度などを把握するべき義務
  • 嚥下障害に応じた食品・調理方法を選ぶべき義務
  • 嚥下障害の状況、食材などに応じ、適切な食事介助、付添・監視などの体制をとるべき義務
  • 誤嚥事故発生後、救急搬送などの救急救命措置を直ちにとるべき義務

これらの義務違反が認められる場合は、介護サービス契約上の債務不履行責任として損害賠償請求が認められます(民法415条)。

ポイントになりやすいのは、「嚥下障害の予見があったか?」です。
※「むせこみがあった」「家でのむせこみを職員さんに伝えていた」「以前も誤嚥があった」「かけこみ癖があった」など、危ないと思う兆候が施設側に認識されていた(口頭で伝わっていた、サービス計画書やケア記録に書いてあるなど)

また、過失によって被害者に損害を与えた不法行為であることを理由として損害賠償を求めることも可能です(民法709条、715条など)。

賠償を請求できる損害としては、例えば次の項目が考えられます。

治療費、入通院慰謝料、通院交通費、付添費用、増額した介護費用、死亡事故における本人分の慰謝料、死亡事故における近親者分の慰謝料、弁護士費用など

5.食品の誤嚥による死亡事故の裁判例

では、実際に損害賠償が認められた裁判例を紹介します。
まずは、食品の誤嚥事故です。

【こんにゃく、はんぺんの誤嚥死亡事故で損害賠償を認めた裁判例】
名古屋地裁平成16年7月30日判決(公刊物未搭載・事件番号:平成14年(ワ)第2028号)

特別養護老人ホームのショートスティ利用者(男75歳・軽度認知症、脳梗塞等)が、介助を受けながら昼食のおでんを食べ、こんにゃく2片、はんぺん1片を喉に詰まらせて窒息死した事案です。

裁判所は、①利用者は総入歯で、嚥下障害があったこと、②「こんにゃく」や「はんぺん」は、嚥下障害のある者には向かない食物であること、③これらを食べさせる際は、誤嚥しないよう細心の注意を払う必要があることを指摘しました。

そのうえで、職員が「こんにゃく」を食べさせた後に、利用者の口中と嚥下動作を確認せずに、さらに「はんぺん」を食べさせた点に過失があると認定し、慰謝料2100万円を含む総額約2426万円の損害賠償を命じました。

※弁護士古笛恵子編著「介護事故の裁判と実務」(ぎょうせい・318頁)

6.異物の誤嚥による死亡事故の裁判例

次は、食品以外の異物を誤嚥したことによる損害賠償を認めた例です。

【紙おむつの誤嚥による死亡事故で損害賠償を認めた裁判例】
さいたま地裁平成23年2月4日判決

認知症のために、「紙おむつ」など食物以外のものを口にいれてしまう「異食癖」のある特別養護老人ホームの入所者(女性78歳)が、「紙おむつ」を喉に詰まらせて窒息死した事故です。

遺族が、介護施設側の注意義務違反を理由に損害賠償を求めたところ、介護施設側は、「紙おむつ」を食べないよう、入所者ではファスナーをあけることができない介護服を着用させていたことなどから、注意義務違反はないと争いました。

しかし、裁判所は、介護服を着用させていたにもかかわらず、入所者が介護服の下に着用していた「紙おむつ」を取り出して口に入れてしまったのは、職員によるファスナーの閉め忘れ、閉め方の不十分、ファスナーの故障、生地の経年劣化による破損などのいずれかが原因で、いずれにしても施設側による介護服の使用方法が不適切で、注意義務に違反したものと認定し、総額1770万円(内訳:慰謝料1600万円、葬儀費用30万円、弁護士費用140万円)の損害賠償を命じました。

7.まとめ

介護施設を利用する高齢者や障害者が誤嚥事故を起こしてしまうケースは珍しくなく、障害の深刻化や死亡といった重大な結果に直結します。

その事故が、介護施設側がなすべき適切な介護を怠ったことに起因するなどした場合、被害者・家族は、治療費や慰謝料などの損害賠償を求めることができます。

このような事案では、多くの場合、介護施設側の注意義務違反の有無・内容をめぐる争いとなります。これは最終的には裁判所によって判断される専門的な法律問題です。

どのように対応するか、まずは法律の専門家であり、介護事故の解決に注力し、経験豊富な弁護士に相談されることをお勧めします。