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誤嚥のよくある事故と家族がとるべき対応

弁護士 赤井 耕多

弁護士 赤井 耕多

千葉県弁護士会

この記事の執筆者:弁護士 赤井 耕多

誤嚥・転倒事故のご相談をきっかけに、6年前から介護事件に注力。全国的に、この分野に詳しい弁護士が少ないことを知り、誰かの助けになればとの思いで日々勉強中。現在、関東一円や、時には新潟からのご相談まで、幅広い地域をカバー。

介護事故として、転倒の次に多いのが、誤嚥事故です。今回は、その誤嚥事故について、解説していきたいと思います。

誤嚥とは

食事の誤嚥とは、食べ物を食べて、本来なら食道から胃に入るべき飲み物や食べ物が、正しく嚥下されず、気道に入ってしまうことをいいます。

簡単に言うと、飲み物や食べ物が間違って、肺のほうに入ってしまうことをいいます。気管は、本来空気だけが通る道ですから、そこに食べ物がはいってしまうと、空気の通り道がせまくなってしまい、息がしづらくなってしまうということです。それでは、どのような事例があるのか、見ていきましょう。

事例紹介

そもそも、誤嚥事故がおきた場合に、施設側の責任を問える場合とは、どのようなときなのでしょうか。
そこで、まずは、施設側の責任が認められた例として、いくつかの判例を紹介させていただきたいと思います。

事例1(揚げ物で窒息=責任肯定)

訪問介護サービスを受けている87歳の女性について、ヘルパーが昼食にうどんを調理し、提供しました。その際、直径6㎝~7㎝の揚げ物を切らずにうどんの上に盛り付けたところ、これを誤嚥し喉に詰まらせて窒息し死亡した事例について、ヘルパーの過失を認定し、その責任を認めた事例です。(松山地裁平成26年4月17日)

事例2(スイートポテトで窒息=責任肯定)

介護付き有料老人ホームの利用者で72歳の男性が、談話室で配られた自分の分のスイートポテトを食べ終えた後、そこから10メートル離れた廊下の配膳台まで移動して、配膳台の上にあるスイートポテトを盗み食いしてしまいました。職員がそれを発見し、吐き出させようとしたができず、談話室に戻って数分後に容体が急変しました。結局、誤嚥したことが原因で、9か月半後に死亡した事例について、施設側に注意義務違反があったとし、責任を認めた事例。(東京地裁平成30年1月31日)

事例3(焼き魚で窒息=責任肯定)

特別養護老人ホームの利用者で81歳の女性について、食堂で夕食として、焼き魚等の食事が提供され、職員がその場を離れたところ、口の中に食物を含んだまま動かなくなり、窒息死した事例について、施設側の注意義務違反を認定し、責任を認めた事例があります。(名古屋地裁令和5年2月28日)

事例4(ゼリーで窒息=責任肯定)

ショートステイ中の介護施設利用者で94歳の男性が、食堂で、おやつのゼリーをのどに詰まらせ、窒息死した事例について、施設側に義務違反があるとして、責任を認めた事例(広島地裁令和5年11月6日)があります。

また、責任が認められなかった事例もご紹介します。

事例5(利用初めての食事=責任否定)

デイサービスの利用者で、59歳の男性について、施設を初めて利用し、他の利用者がおらず、職員が一緒に食事をしながら昼食を見守っていたところ、その昼食のから揚げ5個のうち、5個目の唐揚げをのどに詰まらせ死亡した事例について、施設側に注意義務違反はなかったとして、施設の責任を認めなかった事例(東京地裁平成28年10月7日)

事例6(誤嚥予見できず、救命義務違反もなし)

特別養護老人ホームの利用者で、75歳の女性について、食事介助を受け朝食をとっていたところ、むせ込み窒息して死亡した事例について、一応の救護は行っていたことなどから、救命義務違反は認められないとして、施設の責任を認めなかった事例(東京地裁令和3年8月26日)

事例7(元来リスクは低かった事例)

デイサービスの利用者で、68歳の男性について、食堂でちらし寿司等の昼食をとっていたところ、口膣内に食物を含んだ状態で意識を失って心肺停止状態に陥り死亡した事例について、施設側に過失はないとして、施設の責任を認めなかった事例(津地裁伊賀支部令和3年9月1日)

などがあります。

法的責任が認められるのは、どういうときか

これまで、責任が認められた事例、認められなかった事例について、述べてきました。そこで、次に、どのような理由で、それぞれの事例で責任が認められたのかについて、解説していきます。

1 どのような責任が考えられるか

まず、誤嚥事故における法的責任としては、安全配慮義務違反に基づく債務不履行責任や不法行為責任が考えられます。

  1. 予見可能性の有無
  2. 回避義務違反の有無

がポイントです。

それぞれ、具体的な事例をもとに、検討していきたいと思います。

2 それぞれの事例検討

(1)責任を認めた事例

ア 事例1について

事例1については、①利用者が87歳という高齢で、身体機能の悪化が認められること、事故前に嚥下障害があるかもしれないとして疑うべき痰の発生が認められたこと、歯がほとんど残っておらず、入れ歯も使っていないこと、そのうえで、揚げ物は円形であり、重大な窒息事故が発生する危険性の高い形であり、介護事業者はこれらを認識しているのだから、揚げ物をそのまま提供した場合、窒息事故の発生を予見できたとして、事故の予見可能性を認めました。②そのうえで、ヘルパーには、揚げ物を一口大程度の食べやすい大きさに切って提供するなどの注意義務があったのだから、注意義務違反があるとして、調理方法における過失があると認定しました。

イ 事例2について

事例2については、①利用者が嚥下障害で食物をのどに詰まらせて窒息することがあったこと、施設側は、医師の診断等をふまえて刻んだ食事を提供しており、利用者の盗み食い等のトラブルを認識していたのであるから、職員は、盗み食いに気づいた時点で、スイートポテトを喉に詰まらせることの予見は可能であるとして、事故の予見可能性を認めました。そのうえで、②利用者がスイートポテトを飲み込むことを見届け、途中で誤嚥した場合に備え、様子を監視し続ける注意義務を負っていたが、これに違反したとして、注意義務違反があると認定しました。

ウ 事例3について

事例3については、施設側が、①利用者にかきこんで食べる癖があり、その際にむせ込んで嘔吐してしまうことがあることを認識しており、医師の指示で米食とおかずからおかゆと刻んだおかずに変更したにもかかわらず、利用者の子の意向を受けて、おかゆからやわらかいごはんに変更したのであるから、職員は利用者がかきこみ食べることにより嘔吐し、その吐いたものを誤嚥し窒息する危険性を予見できたとして、予見可能性を認めました。そのうえで、②施設側は、やわらかいご飯を提供している以上、食事の際に、職員に常時見守らせるべき注意義務を負っていたが、これに違反したとして、注意義務違反があると認定しました。

エ 事例4について

事例4については、施設は、①利用者の、年齢や、何度も誤嚥性肺炎を起こしていたこと等から誤嚥を引き起こす危険性がとくに高いことを認識していたのだから、利用者が自力で食事の摂取が可能であったことやゼリーが厚生労働省の定める基準を満たしていたとしても、利用者がゼリーを誤嚥することは予見可能であるとして、予見可能性を認めました。そのうえで、②他の利用者に対する配膳を先に行い、その後に利用者に対する配膳を行うなどして、利用者を見守ることのできる状態にしておくなどの一般的な措置を講じる義務があったが、これを行わず、施設利用者全員への配膳終了後10分程度経過して利用者の異常に気付いたのであるから、義務違反があると認定しました。

(2)責任を認めなかった事例

オ 事例5について

事例5については、①利用者についての情報をまとめたものには、常食、嚥下普通、禁食は無と記載され、食欲旺盛であることは知らされていたものの、自宅で誤嚥した経験もなく、主治医や家族からも誤嚥についての要望はなく、左半身まひのため食べこぼしがあったことから、咀嚼困難等を想定することも不可能ではないが、誤嚥の危険性があることを具体的に予見することは困難であるとして、具体的な予見可能性を否定しました。そのうえで、鶏のから揚げは小ぶりのものであり、3名の職員が直近で見守りながら食事をともにし、むせてせき込み始めたことから直ちに背中をたたいたり口にあるものを出させたりして、顔色が急激に悪くなった直後には119番通報し、そのあとも気道を確保しながら声掛けをして背中をたたき続けたことなどから、注意義務違反はないとしました。

カ 事例6について

事例6については、利用者の窒息には気管内の痰が大きくかかわっているが、その痰について、誤嚥したことが原因とは認定できず、職員に食事介助の前に、痰等が詰まっていないかを確認する義務はなく、事故後異変を察知するとすぐに肩をたたいたり、声をかけたり利用者の反応が見られなくなると血圧・体温を測定し、およそ5分後には吸引機を使用し、119番通報をして、その後AEDを使用している。こうしたことから、救命義務違反は認められないとしました。

キ 事例7について

事例7については、利用者は食事が自分でできていて、誤嚥障害は認められなかったから、早食いの傾向があったにせよ、誤嚥のおそれがとくに大きいとはいえず、食事中に異常が生じたとしても、周囲に助けを求めることが一応期待でき、食事中に職員が常時目を離さないようにする義務があったとまではいえず、食事が自力、あるいはほぼ自力でできていた利用者15名に対して、看護師1名、介護士1名の人員配置が不適切であったとはいえないとして、義務違反を認めませんでした。また、異常発見後、口の中や気道の中のに残った食べ物を外に出すよう尽力しており、その後心肺停止状態となったが、異常発見から救急要請の電話まではおおむね7分~10分前後で、過失はないとしました。

(3)まとめ

以上を見る限りでは、①予見可能性があったかどうか、そして、②措置義務、救護義務などの安全配慮義務を尽くしていたかどうかが、施設側に責任がみとめられるかどうかの分かれ目といえます。

責任が認められた事例においては、以前も誤嚥をしていたことや、誤嚥のおそれがあることを疑わせるような傾向があったことを前提として、誤嚥事故が起こる予見可能性があったことを認めています。また、そのうえで、適切な安全配慮義務を怠っていると認定していることがわかると思います。

一方で、認められていない事例では、そもそも予見可能性が認めにくいもの、また、安全配慮義務違反と呼べるような注意義務違反がないということがわかると思います。

介護施設においては、利用者がどのような行動をとる可能性があるかについては、日常の行動からや診察結果、家族からの意見により、ある程度予見できると認められやすいといえます。また、安全配慮義務も、介護施設は、そのような利用者を受け入れることを前提としているため、高い基準が要求されます。

すなわち、誤嚥事故についても、介護施設側の責任が認められやすいといえます。もっとも、死亡との因果関係があると認められるか、利用者側の過失の有無など、事案によって、どこまで認められるかはわかれることになります。

過失相殺について

これまで見た事例の中では、利用者側にも一定の過失があるとして、過失相殺が認められたものもあります。例えば、事例3については、利用者の子が、利用者にお粥を食べさせるのではなく、普通の食事に戻してほしいと要望したため、施設側も普通食に変更したという経緯があったことから、利用者側にも5割の過失があるとしました。また、事例2についても、1か月ほど前から、盗み食いの癖が急速に悪化しており、その癖に内在する危険性が現実化したものとして、施設側の責任を損害額の7割としました。

誤嚥事故が起こった場合、まずなにをすべきか

それでは、実際に自分の身内がそのような事態に陥ったらどうすればよいでしょうか。

まずは、施設側に説明を求めるべきです。何らかの原因があって誤嚥してしまったのですから、その原因を説明させたうえで、場合によっては、書面として残してもらうか、録音させてもらうべきでしょう。

次に、介護記録や介護事故報告書、死亡診断書やカルテなど、事故が起こった原因について記載されている可能性のある書面について集めていくべきです。

このように、証拠を集めていくことが後々、介護施設の責任を問ううえで、重要になっていきます。訴えるかどうか迷っている場合でも、まずは、大切なご家族に「何が起きたか知りたいので」開示してほしい旨伝えることは、何もおかしなことではありません。

お見舞金を提示されたら

介護事故が起きた場合には、施設側が、過失は認めないがお見舞金としていくらかを提示して、これで事故についての処理を終了させようとすることがあります。

ここで注意すべきなのは、通常、お見舞金の額は、相当少額であるということです。そのため、お見舞金を提示された場合には、まず、本当に施設側に過失がなかったかを確認する必要があるでしょう。なぜなら、裁判をした場合に得られる補償よりもはるかに少ない金額を受領することで、介護事故について終結させてしまうおそれがあるからです。受け取ってしまったら、それで和解したという意味に解される可能性があります。

そのため、先ほど述べた各証拠を入手することや、施設の職員から説明を聞くことが重要になってきます。証拠は施設側の過失を認定するうえで、欠かせないものだからです。なによりするべきことは、弁護士に相談することでしょう。

弁護士への相談

少額のお見舞金を提示されただけで終結させようとする施設側の対応に納得がいかない、あるいは、介護施設側に責任はないのかと感じたら、一度、弁護士に相談することが重要です。介護施設側が過失はなく、法的責任がないといっていても、弁護士が事故についての資料を見て、判断した場合には、異なる結論になる可能性があります。

介護事故は、場合によっては、大切な家族の命を失ってしまうものです。そのときに、施設側の責任や過失があった場合には、悔やんでも悔やみきれない思いがあると思います。そのため、介護事故で、何かおかしい・納得できないと思ったら、法律事務所に相談するとよいでしょう。初回相談は、30分無料ですので、お気軽に相談してください。

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