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転倒のよくある事故ととるべき家族の対応

弁護士 赤井 耕多

弁護士 赤井 耕多

千葉県弁護士会

この記事の執筆者:弁護士 赤井 耕多

誤嚥・転倒事故のご相談をきっかけに、6年前から介護事件に注力。全国的に、この分野に詳しい弁護士が少ないことを知り、誰かの助けになればとの思いで日々勉強中。現在、関東一円や、時には新潟からのご相談まで、幅広い地域をカバー。

今回は、介護事故の類型の1つである転倒事故について解説していきます。
転倒は、介護事故の中では、最も多い類型です。それだけ、生じてしまいやすい事故です。

転倒とは

転倒事故は、様々な場所で生じうる事故です。その中でも、大別すると、施設内と施設外がありあます。施設内だと、施設の居室内(ベッドやその周辺)、トイレ、その他の施設内での転倒があります。また、施設外の転倒として、送迎中の転倒があります。そこで、以下では、それぞれの場所に応じた転倒、転落の事例について、紹介していきます。

事例紹介

以下では、転倒事故について、施設側の法的責任を問うことができた事例について、場所ごとに紹介していきます。

(責任が認められた事例)

1 施設の居室内

事例1

介護老人保健施設で、79歳の利用者が、認知症専門棟のホールで就寝中に転倒してしまいました。その方は、左大腿骨転子部骨折の傷害を負ってしまった事例です。裁判所は、施設に債務不履行責任があるとして、施設側の責任を認めました。(東京地裁平成24年3月28日)

事例2

介護老人保健施設で、75歳前後の女性の入所者が、施設内の事故の居室内で転倒してしまいました。うちどころが悪く、外傷性急性硬膜下血腫で死亡してしまった事例について、施設側に転倒防止措置義務違反があるとして、施設側の責任を認めました。(広島地裁福山支部令和5年3月1日)

2 トイレにおける転倒

事例

介護老人保健施設で、97歳の女性の利用者について、職員が、利用者のトイレ介助をしていました。利用者を居室の隣にある個室トイレに車いすで連れていき、トイレの便器に座らせるまで介助をした後、トイレのドア前で見守りを行っていたのですが、他の利用者の対応のために、その場を離れてしまいました。その約15分後、利用者がトイレのドアにもたれて床に座り込むように転倒しており、左大腿骨頚部骨折の障害を負った事例について、安全配慮義務違反があったとして、施設側の責任を認めました。(東京地裁令和元年11月14日)

3 その他施設内の転倒

事例

特別養護老人ホームのショートステイで96歳の女性の利用者が、施設3階のユニットの共同生活室から個室へ移動する際、個室の入口付近で後ろ向きに転倒してしまいました。第11胸椎新鮮圧迫骨折等と診断され、その約2か月後に呼吸不全で死亡した事例について、安全配慮義務違反があったとして、施設側の責任を認めました。(福岡地裁小倉支部平成26年10月10日)

4 送迎中の転倒

事例

指定通所介護を受けていた91歳の男性の利用者の送迎の際に、職員が車の付近で待っているように伝えて、同じ施設を利用していた利用者の妻の介助に向かったところ、利用者が歩き出そうとして転倒し、右大腿骨頚部骨折の診断を受けた例について、措置義務違反があるとして、施設側の責任を認めました。(東京地裁令和3年10月29日)

続いて、責任が認められなかった事例についてもご紹介します。

(責任が認められなかった事例)

1 施設の居室内

事例

有料老人ホームの利用者である89歳前後の女性が、自身の居室内で転倒してしまいました。右大腿骨転子部骨折の傷害を負い、歩行困難となる後遺障害が残ってしまいました。この事例については、自身で歩行する際には、ナースコールを利用して、職員を呼ぶように指導をしていたのに、その利用者さんが従わなかったことから、安全配慮義務違反はないとして、施設側の責任を認めませんでした。(東京地裁令和2年7月3日)

2 トイレでの転倒

事例

特別養護老人ホームのショートステイで、81歳の利用者について、職員が利用者をトイレに誘導した後、利用者が職員をブザーで呼び出すまで、職員はドアを開けないという約束に従ってトイレの外で待機していたところ、利用者が排泄を終え、自らお尻を拭こうとした際に、転倒し、左大腿骨転子部骨折の傷害を負った事例について、利用者の身体の状況や、利用者の希望を踏まえて、トイレ内での介助は不要だと定められていたこと等を理由に、施設に安全配慮義務違反があったということはできないとして、施設側の責任を認めませんでした。(東京地裁令和3年4月27日)

3 その他施設内の転倒

事例

介護付き有料老人ホームの77歳の入所者が、施設内の共用フロアの円形ソファの下の床で、体の右側を下にして倒れている状態で発見されました。その方は、右前頭部に皮下出血の傷害を負っていました。その事故は、誰も見ていなかったため、まず原因特定が必要であるところ、他の入居者等と接触して転倒し、またはうたた寝をしてバランスを崩し、共有フロアの円形ソファから転落したことが原因である可能性が高いと認定されました。この事例について、利用者は日常的な基本動作ができ、歩行などは自立であったことや、怪我はあったが、その原因は不明であり、転倒の危険性を認識できるような事情がなかったことなどを理由に、転倒の現実的危険性の予見可能性はなかったとして、施設側の責任を認めませんでした。(東京地裁令和5年4月28日)

4 送迎中の転倒

事例

通所介護を受けていた87歳の女性の利用者が、施設から付属する宿泊施設へ移動する送迎者にいったん乗車したところ、職員が他の利用者の乗車介護をしていた間に不意に降車しようとして転倒し、右大腿骨頚部骨折と診断された事例について、それまで転倒したことがないことや、利用者に忘れ物、トイレを済ませたかどうかの確認をしていたことから、利用者が不意に降車しようとすることは予見できなかったとして、転落防止義務違反はないとし、施設側の責任を認めませんでした。(東京地裁平成25年5月20日)

以上が、各状況での、法的責任が認められた場合と認められなかった場合です。

それでは、どのような場合に、法的責任が認められ、どのような場合に、認められないのか、私達なりに分析してみましたので、ご覧ください。

法的責任がどのような場合に、認められるのか

責任の有無を判断するうえで重要なのは、以下の2つです。

  1. 事故が起こることを予見できる可能性はどの程度あったか。
  2. 予見可能性があったとして、事故を防ぐための措置がとられていたか。

また、少しだけ難しいお話をすると、法的責任(構成)として、安全配慮義務違反に基づく債務不履行責任や不法行為責任が考えられます。それでは、見ていきましょう

認められた事例 その理由

1 施設の居室内の転倒

事例1について

まず、1つ目の事例については、利用者が施設入所後1年強の間に、15回転倒していたこと、いくつかの転倒防止グッズを設置しても転倒を防止できていなかったことから、転倒する危険性が高いことを施設は知っていたとして、転倒事故の予見可能性があったことが認定されました。そのことを前提に、施設としては、利用者を見守る義務、見守りをしていない時間に起きたのなら、その時間に対応する対策をとる義務があったところ、そのような対策をとっていなかったため、利用者の転倒を回避できなかったと認定し、債務不履行責任を認めました。

事例2について

予見可能性については、①施設入所する前から、転倒を繰り返していたこと②その後、入院した病院や施設でもたびたび転倒していたこと③施設入所時には、立ち上がり動作に介助が必要で、事故までに施設で少なくとも2回転倒していること④利用者は、アルツハイマー型認知症による短期記憶障害があり、職員らの再三の注意があったにもかかわらず、ナースコールを使用しなかったことなどをふまえ、転倒についての予見可能性があったと認定しました。

そして、そのことを前提に、ベッドの周辺に、衝撃吸収マット等転倒の際の衝撃をやわらげるものを設置すべき義務があることを肯定し、債務不履行責任を認めました。

2 トイレでの転倒

事例について

利用者は、認知症のため転倒しないような行動をとることを期待できる状態になく、排泄の介助中に見守りを中断した場合、利用者がトイレから出るために自力で立ち上がり、転落する危険性があることや、そのような心身の状態を施設は認識し、それを踏まえてセンサーマットを設置するなどの事故防止策をとっていたことからすると、施設としては、転倒事故について予見可能であったと判断しました。そのうえで、職員には、利用者のもとを離れず、見守りをし続ける義務があり、代わりに見守りを継続する職員を確保することなくその場を離れたことについての過失を認定し、施設側の責任を認めました。つまり、長時間一人にさせてしまうと、何が起こるかわからない状態だったのに、離れてしまったことには過失があるということです。

3 その他施設内の転倒

事例について

利用者が96歳であったこと、訪問看護記録や訪問看護計画書に、転倒する可能性が高い旨の記載があったことから、事故は予見可能であったとしました。そのうえで、可能な範囲において、歩行のための介助や見守り等の措置を講じる義務があるところ、利用者が個室に入る時間帯に共同生活室に職員がいなくなったことについて、義務違反があったとして、施設側の責任を認めました。

4 送迎中の転倒

事例について

91歳という高齢であったことや、杖歩行はできるがふらついてはいたこと、事故前の9か月間に3回転倒していたこと、職員も転倒による骨折の危険性について意見を述べていたこと、利用者は待っているように職員から言われても、歩いてしまうことがあったことなどから、事故の予見可能性を認めました。そのうえで、利用者に付き添うことが難しい時には、転倒の危険性があることを十分に説明したうえで、付添なしでは歩行しないように繰り返し注意しておく義務があったところ、それを怠ったことについて、義務違反があるとし、施設側の責任を認めました。

続いて、責任が認められなかった場合について見ていきましょう

認められなかった事例 その理由

1 居室内の転倒

事例について

まず、予見可能性については、利用者に右上腕に動かせる範囲の制限があり、要介護3の認定を受けていたことや、施設の居宅サービス契約書にも、転倒があった等の記載があることや、医師作成の居宅療養管理指導書においても、転倒への注意が喚起されていたことから、予見可能性は肯定した事例です。

そのうえで、利用者の歩行を介助すべき義務及びその前提として、単独歩行の際にナースコールで介護士等を呼ぶよう指導すべき義務があったとされたのですが、施設が利用者に対しきちんとナースコールの使用について指導していたことから、義務違反はないとされました。また、離床センサーの設置義務もないとし、施設の責任を認めませんでした。

2 トイレでの転倒

事例について

トイレ内介助の要否について、利用者の希望及びケアマネージャーとの協議をふまえて定められていたところ、利用者は、事故当時、ひとりで、トイレで用を足すことが可能な状況にあり、このような身体の状況、トイレ内介助を不要とする利用者の希望をふまえ、利用者に対するトイレ内介助については不要と定められていたことから、施設が、利用者が転倒するのを防止すべき安全配慮義務に違反したということはできないとし、施設の責任を認めませんでした。つまり、施設側は、事前の約束事を守ったにすぎないから、過失がないとされたということです。

3 その他施設内の転倒

事例について

利用者が77歳で、アルツハイマー型認知症と診断され要介護4と認定されていたものの、日常的な基本動作を行うことができ、歩行及び移動は自立とされていたこと。また、事故の近辺に左大腿部の内出血等がみられたが、いずれも軽症で原因は不明で、転倒に対する現実的危険性を認識させるものともいえなかったと認定し、ソファからの転落についても、1年2か月前にうたた寝をしてしまい、負傷をおったが、睡眠不足によるふらつきから生じるものであり、対策によりその後同様の事態は生じていないこと、その負傷以外にうたた寝による転落の経緯はうかがわれないことから、転落の現実的危険性を予見できたとはいえないとし、事故についての予見可能性を認めなかったうえで、常時監視職員の配置義務、カメラでの撮影管理義務は認められないとして、施設側の法的責任を認めませんでした。この事例は、過去に問題が生じたものの、それに対する対策がされ、長らく問題が生じていなかったことから、今回の事故を予見できなかったということです。

4 送迎中の転倒

事例について

利用者は、認知症の症状は認められたが、要介護区分は1であり、意思疎通は可能であり、自力での歩行もでき、トイレや衣服の着脱、車の乗降などの日常生活の動作も自ら行うことができ、施設内や自宅で転倒したことはありませんでした。また、事故当時、忘れ物がないことや排尿を済ませたことの確認を済ませていたため、他の利用者の乗車介助等をしていたごく短期間の隙に、利用者が不意に降車しようとすることは予見できなかったとしました。そして、他の利用者のために、しばしの間利用者から目を離したことに安全配慮義務違反はないとし、施設側に責任を認めませんでした。

まとめ

以上を踏まえると、法的責任が認められるかどうかは、転倒事故について、①予見可能性があったか、また、予見可能性があったとして、②事故を防ぐための安全配慮は十分になされていたかが大きな分かれ目といえます。

そして、この①予見可能性については、利用者個々人の特性、これまでの事故歴、施設側が利用者のことをどこまで知っていたかなどに左右されるものだといえるでしょう。

②安全配慮義務についても、その方が転倒しないよう、施設側が適切な措置をとっていたかどうかが大きな分かれ目になるといえます。逆に言えば、適切な措置以外は必要ないといえます。とても無理そうな措置や、必要ないと考えられる措置については、していなくても、安全配慮義務違反は認められないといえます。

この、法的責任が認められるかどうかの判断というのは、裁判官によっても分かれてしまうものであり、明確な基準が存在しているとはいえないため、介護事故が起きた際には、法律事務所で専門家に相談されることをお勧めします。

転倒事故が起こった場合、まずなにをすべきか

それでは、実際に自分の身内がそのような事態に陥ったらどうすればよいでしょうか。

まずは、施設側に説明を求めるべきです。何らかの原因があって転倒してしまったのですから、その原因を説明させたうえで、場合によっては、書面として残してもらうか、録音させてもらうべきでしょう。

次に、介護記録や介護事故報告書、死亡診断書やカルテなど、事故が起こった原因について記載されている可能性のある書面について集めていくべきです。

このように、証拠を集めていくことが後々、介護施設の責任を問ううえで、重要になっていきます。訴えるかどうか迷っている場合でも、まずは、大切なご家族に「何が起きたか知りたいので」開示してほしい旨伝えることは、何もおかしなことではありません。

お見舞金を提示されたら

介護事故が起きた場合には、施設側が、過失は認めないがお見舞金としていくらかを提示して、これで事故についての処理を終了させようとすることがあります。

ここで注意すべきなのは、通常、お見舞金の額は、相当少額であるということです。そのため、お見舞金を提示された場合には、まず、本当に施設側に過失がなかったかを確認する必要があるでしょう。なぜなら、裁判をした場合に得られる補償よりもはるかに少ない金額を受領することで、介護事故について終結させてしまうおそれがあるからです。受け取ってしまったら、それで和解したという意味に解される可能性があります。

そのため、先ほど述べた各証拠を入手することや、施設の職員から説明を聞くことが重要になってきます。証拠は施設側の過失を認定するうえで、欠かせないものだからです。なによりするべきことは、弁護士に相談することでしょう。

弁護士への相談

少額のお見舞金を提示されただけで終結させようとする施設側の対応に納得がいかない、あるいは、介護施設側が何も阿智横してくれない、説明を尽くしてくれないなど、疑問に感じたら、一度、弁護士に相談することが重要です。

介護施設側が、過失はないとか、法的責任がないといっていても、弁護士が事故についての資料を見て、判断した場合には、異なる結論になる可能性があります。

介護事故は、場合によっては、大切な家族の命を失ってしまうものです。そのときに、施設側の責任や過失があった場合には、悔やんでも悔やみきれない思いがあると思います。

そのため、介護事故で、何かおかしい・納得できないと思ったら、法律事務所に相談するとよいでしょう。初回相談は、30分無料ですので、お気軽に相談してください。

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