転倒のよくある事故ととるべき家族の対応
今回は、介護事故の類型の1つである転倒事故について解説していきます。転倒は、介護事故の中では、最も多い類型です。それ…[続きを読む]
介護中の死亡事故 弁護士に相談するなら|西船橋ゴール法律事務所

弁護士 赤井 耕多
千葉県弁護士会
この記事の執筆者:弁護士 赤井 耕多
誤嚥・転倒事故のご相談をきっかけに、6年前から介護事件に注力。全国的に、この分野に詳しい弁護士が少ないことを知り、誰かの助けになればとの思いで日々勉強中。現在、関東一円や、時には新潟からのご相談まで、幅広い地域をカバー。
介護事故で特に多いのが転倒・転落事故ですが、その中でも、車いす移乗介助中の事故は珍しくありません。
「移乗」つまり、たとえばベッドから車いすへ乗り移る行為は、若く健康な人には何でもない動作ですが、高齢者や障がい者にはそれ自体が困難な動作であり、介助が必要です。
しかし、そんな移乗の介助は、事故が発生するリスクが高い場面です。その事故内容も、転倒・転落による骨折といった大怪我、生命にかかわる大事故から、皮膚の損傷といった比較的軽度の傷害まで様々です。
移乗介助中の事故で利用者が死傷し、損害を被った場合には、利用者の家族は施設側に対して治療費や慰謝料などの損害賠償請求が可能です。
目次
「移乗介助」とは、例えば、ベッドから車いすへ(またはその逆も含め)利用者が移動する際に、これを助ける介護サービスです。
多くの場合、利用者の全身の体重を支えながら運ぶ必要のある、事故が起こる確率が高い危険な作業と言えます。
移乗介助の時に起きやすい事故の例をあげてみましょう。
筋力が弱く動作のコントロールに難のある利用者が車いすから立ちあがろうとする際や、車いす・ベッドに向かって体の方向を変えようとする際に、身体がふらつき倒れてしまうケースのほか、ベッド・車いすに座ろうとして失敗し、滑り落ちてしまうケースなどがあります。
ベッドからストレッチャーへの移乗中に転落する例もあります。
車いすから便座に移動する際に転倒する例もあります。骨粗鬆症などで骨がもろくなっている高齢者などが骨折を起こしやすい事故です。
車いすには、利用者が足を乗せておくフットレスト(フットサポート)が装備されています。
この装備を踵や膝に接触させてしまい、浮腫(むくみ)によって皮膚が脆弱化した高齢者などが、裂創などの傷を負ってしまうケースがあります。
血液をサラサラにする薬を飲んでいる方の場合、通常よりも出血が止まりにくく、皮下損傷によって大きな血種(あざ)ができてしまうなど、思った以上に大きな事故に繋がりかねません。あざや術後痕が残ってしまうこともあります。こういう場合も損害賠償請求の対象となりえます。
医療機関での事故としては、患者に施された栄養剤チューブ、酸素チューブ、ドレーンチューブなどが移乗中に抜け落ちてしまったり、チューブが身体に絡まり転倒につながったりする事故があります。
移乗介助中の事故の発生原因は、人的なミスに原因がある場合と、それ以外(設備や環境など)に原因がある場合に分けることができます。
介護する者の知識・経験不足、判断ミス、確認不足などです。
これは、安全な移乗介助を実施するための体制、設備などが整っていない点に原因がある場合です。
移乗介助中の事故で利用者が怪我をするなど損害を被った場合、介護施設に対して損害賠償を請求することが可能です。
その法的な根拠となるのは、①不法行為責任(民法709条)と②安全配慮義務違反による債務不履行責任(民法415条)です。
不法行為は、故意過失によって他人に損害を与えた加害者に、その損害の賠償責任を追わせる制度です。
例えば、A介護施設の職員Bが車いすのフットレスト位置を未確認のまま高齢の利用者Cをベッドから車いすに移乗させようとしたため、Cがフットレストに足を引っ掛けて転倒し、骨折してしまったというケースでは、職員Bはフットレスト位置を確認するべきだったのに、これを怠ったという過失があります。
そこで、職員Bは、利用者Cの骨折治療費などの損害を賠償する責任を負います(民法709条)。
また、この場合、職員Bを雇用しているA介護施設も、使用者責任(民法715条)に基づき、Bと並んで損害賠償責任を負います。
多くの場合、Bには十分な賠償資力がないので、Bを使用することで利益をあげているA介護施設にも賠償責任を負わせることで、被害者の救済を図る制度です。
上の例で言えば、A介護施設は、利用者Cとの間で介護サービスを提供する契約を結んでいます。
その契約の内容として、A介護施設は、利用者の心身の安全に配慮する義務(安全配慮義務)を負担しています。
そこで、利用者Cは、A介護施設がこの契約上の義務を履行していないと主張して、損害賠償を請求することもできます。
移乗介助事故で請求できる損害賠償金の主な内容は、次のとおりです(利用者が怪我をした場合の例)。
移乗介助事故で利用者が死亡した場合は、死亡したことに対する死亡慰謝料、近親者独自の慰謝料なども請求できます(民法711条)。
【移乗介助中の死亡事故で約1750万円の損害賠償請求が認められた裁判例】
東京地裁平成28年12月19日判決・LLI/DB:L07133904(※)特養ホームの利用者(75歳女性)をベッドから車いすに移乗させる際の転落事故の事案です。介助者は介護用リフトを使用しましたが、利用者の身体を覆うシートを引っ掛けるための「ループ」という部分が、リフトのフック部分に正常に引っかかっていること等を確認する義務に違反したため、利用者がリフトから転落しました。
その結果、外傷性くも膜下出血、急性硬膜下血腫等の傷害を負い、翌日死亡してしまいました。裁判所は、合計約1750万円の損害賠償を認めました。
その内訳は、①死亡慰謝料1200万円、②近親者3名の慰謝料300万円、③葬儀費用約90万円、④カルテ取寄費用約1万5000円、⑤弁護士費用160万円です。※弁護士古笛恵子編著「介護事故の裁判と実務 施設・職員の責任と注意義務の判断基準」(ぎょうせい・293頁)
また、弊所でも、解決事例にあるとおり、2000万円以上の賠償金が支払われたケースがあります。
→施設内で転倒。頭を強く打ち亡くなった例(2000万円)
移乗介助中の事故を防止するために介護施設が講ずるべき対策は、①マニュアルの整備、②職員の教育、③設備管理の徹底です。
逆に、被害者側から見れば、これらの防止策を施してしない介護施設には、移乗介助事故の発生に対して過失があると主張しやすいことになるでしょう。
まずは、移乗介助の手順、遵守事項を明らかにしたマニュアルを整備します。
移乗介助中の事故が発生した場合、家族としては、被害者の治療と健康回復に注力することはもちろんですが、それと同時に今後の損害賠償請求に備えた準備も怠るべきではありません。
まず、早急に医師の診察を受けさせ、診断書の交付を受けることが必要です。
診断書に記載された傷病名、傷害の程度・内容、治療内容は、後に損害賠償責任を追及する際の重要な証拠となります。
また、医師が作成するカルテも重要な証拠として利用できますので、受傷状況はできるだけ詳しく説明し、記録してもらいましょう。
移乗介助時の事故状況を知るために、担当した職員、関係者、目撃者などから事情を聴取するべきです。
また、施設側が保有する資料として、①フェイスシート(利用者の自立度を記載した書面)、②業務日誌(当日の施設の繁忙状況などがわかる記録)、③生活記録(各利用者の当日の行動などを記録したもの)、④介護事故報告書(市町村への事故内容の報告書)などを入手・確保しておきましょう。
さらに、たとえば車いすのロック機構の故障や、床の出っ張り部分などに転倒事故の原因がある場合などには、その画像・動画を撮影して保管しておくことも必要です。
移乗介助事故の被害を受けた場合には、弁護士に相談、依頼をすることを検討するべきです。
介護施設の損害賠償義務が認められるには、職員や介護施設側に過失があることが原則です。
施設側の過失責任を問うには、専門的な法律知識が必要です。
施設側の過失は証拠をもって裏付ける必要がありますが、どのような証拠が要求されるのかは、裁判の専門家である弁護士でなくては判断が困難なのです。
さらに、たとえば施設側に不利な証拠資料を施設側が出し渋ったり、内容を書き変えてしまったりする危険性がある場合、弁護士であれば、裁判所の証拠保全手続を活用して、証拠を確保してしまうことができます。
加えて、移乗介助事故で請求できる損害金の内容も、その項目は多岐にわたり、定式化された算定方法があります。
いくらを請求することが法的に適正かを知るにも、弁護士の法的アドバイスが必要です。
弁護士は、訴訟前の解決を目指して示談交渉も担当できます。損害賠償につき、被害者の代理人として施設側との交渉を担当し、示談をまとめて訴訟に至る前に解決することを目指します。
西船橋ゴール法律事務所は、このような介護問題、医療問題の対応に注力・精通しております。
初回相談は30分無料なので、どうぞお気軽にご相談ください。
