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食事中の窒息による介護事故を施設に責任追及するには?

食事中の窒息による介護事故を施設に責任追及するには?
弁護士 赤井 耕多

弁護士 赤井 耕多

千葉県弁護士会

この記事の執筆者:弁護士 赤井 耕多

誤嚥・転倒事故のご相談をきっかけに、6年前から介護事件に注力。全国的に、この分野に詳しい弁護士が少ないことを知り、誰かの助けになればとの思いで日々勉強中。現在、関東一円や、時には新潟からのご相談まで、幅広い地域をカバー。千葉医療問題研究会所属。

介護施設を利用する高齢者などが、食事中に食物を喉に詰まらせ窒息し、入院を余儀なくされたり、最悪の場合は死亡したりしてしまうという事故は珍しいものではありません。

不幸にしてそのような事故に遭ったなら、利用者やその家族は、介護施設の法的責任を追及し、治療費や慰謝料などの損害賠償を請求することを検討するべきです。

1. 食事中の窒息による介護事故について

1-1. 高齢者に多い「誤嚥による窒息」

厚労省の「人工動態調査」をもとに消費者庁が独自に発表した資料(消費者庁「◎高齢者の事故に関するデータとアドバイス等」)によると、令和3(2021)年における65歳以上の不慮の事故死の死因としては、第1位の「転倒・転落・墜落」(死亡数9,509人)に次いで、第2位が「窒息」(死亡数7,246人)となっています。

そして「窒息」事故のうち、「食物の誤嚥」が死亡数3,884人で、54%を占めています。

1-2. 高齢者の誤嚥が多い原因

「誤嚥」とは、嚥下(飲み下し)されて食道から胃に入るべき飲み物や食べ物が正しく嚥下されず、気道(気管、気管支、肺)に入ってしまうことです。
高齢者に誤嚥が発生し易い原因として、主に次の諸点が指摘されています。

  1. 唾液の減少や歯の欠損のため、食物を噛み砕いて飲み込み易い大きさの塊(食塊)にすることが困難となること
  2. 食べ物が喉を通る際には、反射的に気道が閉じる「嚥下反射」が行われるが、加齢とともにこの無意識に行われる反射運動のタイミングが遅れること
  3. 認知症などで、そもそも食物を口に入れる適切な分量を判断できず、一度に多くの食物を頬張ってしまう場合があること

そして、高齢者の誤嚥によって生じる結果は、①誤嚥性肺炎、②窒息です。

①誤嚥性肺炎は、誤嚥により、飲食物や唾液と共に細菌が肺に侵入し、肺炎を発症するものです。
この場合は、誤嚥から発熱などの症状が現れるまでには時間があり、ゆっくりとダメージが蓄積する例もあります。

窒息は、食物が気道を塞いでしまい、呼吸ができなくなります。そのままでは、当然、数分で絶命する危険があります。

2. 食事中の窒息で介護施設に責任を追求する法的根拠

介護施設の法的責任を追及する根拠となるのは、「債務不履行責任(民法415条)」「②不法行為責任(民法709条)」です。

債務不履行責任は、介護施設と利用者(または家族)が結んでいる介護サービス契約に基づき、施設側が負担している安全配慮義務(利用者の生命身体の安全に配慮するべき義務)を尽くしていないことを理由として、契約違反による損害賠償を請求するものです。

不法行為責任は、介護施設職員の故意・過失行為によって、利用者の生命身体に損害が生じた場合に、介護職員に損害賠償の責任を負わせるものです。この場合、職員の雇用主である介護施設も連帯して賠償責任を負うことになります(使用者責任:民法715条)。

債務不履行責任、不法行為責任のいずれを根拠とする場合でも、主要な争点となるのは、介護職員を含めた介護施設側の過失の有無です。

介護施設側に、「誤嚥による窒息」という結果発生の予見可能性があることを前提として、結果発生を回避するため具体的にいかなる行為を行う義務があったのか(結果回避義務)が問題となります。

3. 食事中の窒息での介護施設側の注意義務違反(過失)とは

食事中の誤嚥による窒息事故が起きた場合、介護施設側に、次のような注意義務違反があったか否かが問題となります。

  • 被害者(利用者)に以前から嚥下障害があったかどうか、あったならば障害の程度など、被害者の状況を把握するべき注意義務 私たちの事務所にご相談にいらっしゃるケースの中でも、特に、以前からむせや、かけこみなどの症状があった場合には責任を追及しやすいです。
  • 被害者の状況に適した食品・調理方法を選択するべき注意義務(のみこみづらい物を提供していないか)
  • 被害者の状況や食品・食材の内容などに応じた食事介助の方法、介護体制(付添や監視など)をとるべき注意義務
  • 誤嚥が発生してしまった場合の事後対応。救急搬送などの救急救命措置をとるべき注意義務

これらについて、ひとつずつ、実際の裁判例と共に説明していきます。

3-1.被害者の状況を把握するべき注意義務

介護施設側は、通常、嚥下障害の有無・その程度に関する情報を事前に得たうえでサービスを開始するので、この注意義務の有無が問題となる例は少ないようです。

ただ、施設利用者だからといって、常に嚥下障害による誤嚥の危険性を予見できたとされるわけではなく、どのような情報が施設側に与えられていたのかが重要です。

【裁判例】東京地裁平成28年10月7日判決(公刊物未搭載・事件番号:同地裁平成27年(ワ)第16389号※)

脳梗塞で左半身完全麻痺のデイサービス利用者(男59歳・要介護4)が、昼食の鶏唐揚を喉に詰まらせて死亡した事案です。裁判所は、①通所介護アセスメント表には、「常食、嚥下普通、禁食なし」と記載されていたこと、②自宅で誤嚥した経験がないこと、③家族・主治医からも誤嚥について特段に要望がなかったことを指摘し、誤嚥の危険性を具体的に予見することは困難であったと認定し、請求を棄却しました。

※弁護士古笛恵子編著「介護事故の裁判と実務」(ぎょうせい・329頁)

入所時に、誤嚥やむせの傾向が伝わっていたかが重要です。
また、伝えたことをきちんと介護計画に反映してくれていたかも重要です。

もちろん、入所時には問題なくても、やはり入所後の身体変化により嚥下障害が生じることもよくあるので、施設がそれに応じて対策していたかが重要です。

3-2. 被害者に適した食品・調理方法を選択する注意義務

1 飲み込み易い食材、調理法が必要

誤嚥の危険がある以上は、各利用者の嚥下障害の状況を踏まえて、飲み込みやすい食材、調理方法を選択する注意義務があります。

たとえば、餅・こんにゃく・さつまいも・パンは誤嚥し易い食材とされています。その他の食材でも、適切な大きさに切り分ける、とろみをつける、ミキサーで流動食化するなどの調理方法を採用するべきであり、このような配慮を怠れば、注意義務違反となります。

【裁判例】水戸地裁平成23年6月16日判決(判例時報2122号109頁)

介護老人保健施設において、パーキンソン症候群、認知症の利用者(男86歳・要介護3)が、昼食の刺身(縦25mm×横40mm×厚5mm)を誤嚥して窒息し、4ヶ月後に心不全で死亡した事案です。

裁判所は、①施設サービス計画書の記載やサービス担当者会議で誤嚥の危険が確認されており、②実際、入所後は全粥、ペースト状の副食、とろみ付き飲物を提供していたにもかかわらず、③提供された刺身は、健常人が食べるのと異ならない大きさで、嚥下しやすくする工夫を講じていないと指摘して、注意義務違反を認め、慰謝料1,500万円を含む、総額約2,200万円の損害賠償を施設側に命じました。

2 あらゆる食材に事故の可能性がある

これまで、誤嚥による窒息で裁判となった食材には、次の例があります。

こんにゃく田楽、バナナ、ロールキャベツ、白玉だんご、パン粥、メロンパン、刻んだ蒲鉾、おにぎり(1片5センチ程度の三角形)、刺身、飴玉、ロールパン、さつま揚げ、蒸しパン、ゼリー、スイートポテト、ドーナツ、焼き芋、刻みほうれん草

実に様々な食材が誤嚥され、窒息の原因となっています。健常者には何でもない食べ物が、高齢者などには危険物となる場合があることがわかります。

3-3. 被害者に適した食事介助の方法、介護体制をとるべき注意義務

誤嚥による窒息の危険が予見できる場合には、その結果が生じることを回避できるよう、食事中の介助・見守り・監視方法を適切に選択するべき注意義務があります。

どのような方法を選択するべきかは、嚥下障害の程度の軽重、食材や料理方法の危険度に応じて異なります。

誤嚥する危険性が高ければ、食事中1対1で常に介助をする方法が必要な場合もあります。危険性が低ければ、複数利用者の食事を、数人の職員で監視することで足りる場合もあります。

【裁判例】名古屋地裁令和5年2月28日判決(判例時報2582号64頁)

特別養護老人ホームの利用者(女81歳・アルツハイマー型認知症・要介護5)が、夕食を誤嚥して窒息死した事案です。

この事案では、利用者は食事をかき込んで食べ、むせ込んで嘔吐することがありました。施設側もこれを認識しており、医師の指示を受けて、食事を通常食から「全粥・刻み食」に変更しました。

ところが、利用者の家族から普通の食事に戻すよう要望を受けたため、「全粥」を「軟飯にちかい普通食」へと再度の変更を行ったところ、事故が発生してしまいました。

裁判所は、かき込んで食べた嘔吐物で窒息する具体的な危険を認識した以上は、食事の際に職員をして常時見守らせるべき注意義務があったのに、これを尽くしていなかったとして、施設側の過失を認めました。
ただし、食事内容の変更は、利用者の家族の要望によるものであったことを考慮し、被害者側の過失として5割の過失相殺を認めています。

その結果、賠償金として、約1,380万円の支払いを命じました。

3-4. 誤嚥が発生した場合の事後対応・救急救命措置

誤嚥事故の発生それ自体については、介護施設側に注意義務違反がなかった場合でも、誤嚥事故が発生した後に適切な救急救命措置をとらなかったことが過失に該当すると判断される場合があります。

【救急車を呼ばなかったことが過失とされた裁判例】東京地裁平成19年5月28日判決(判例時報1991号81頁)

特別養護老人ホームにおいて、利用者(女・97歳)が、昼食の蒲鉾(細かく刻まれたもの)を誤嚥して窒息し、入院した事案です。

このケースでは、利用者が口から泡を出していることに気づいた介護職員が吸引をし、いったんは容態が安定したように見えました。しかし、その後再び泡を出し、呼吸が苦しそうで、チアノーゼが見られる状態にまでなったのに、救急車を要請しませんでした。

裁判所は、介護職員が吸引をしても、気道内の異物を完全に除去できたか否かを的確に判断することは困難であったのだから、容態が安定したように見えた後も引き続き状況を観察し、急変した場合には直ちに医師に連絡したり、救急車を要請したりするべき義務を負っていたと指摘し、慰謝料約300万円の支払いを命じました。

【救急車を呼ぶのが遅れたことが過失とされた裁判例裁判例】広島地裁福山支部平成23年10月4日判決(公刊物未搭載・事件番号:同支部平成21年(ワ)第3034号※)

デイサービスの利用者(男79歳・四肢麻痺・要介護4)が、他の利用者からもらった飴玉を喉に詰まらせて死亡した事案です。

このケースでは、利用者が喉を詰まらせていることに気づいた職員が、背部叩打法、ハイムリック法、吸引などの措置を行って、喉から飴玉を取り出そうと努力しましたが成功せず、利用者の顔色が不良となってしまいました。

ところが職員は、さらに人工呼吸、心臓マッサージを行い、救急車を要請したのは、顔色が不良となってから10分後でした。

裁判所は、遅くとも、顔色が不良となった時点で救急車を要請するべき義務があり、要請が遅れた点に安全配慮義務違反があるとし、慰謝料1,000万円の支払いを命じました。

※前出「介護事故の裁判と実務」325頁

4. 介護施設での食事中の窒息事故は弁護士に相談を

これまで説明したとおり、介護施設に対し、誤嚥・窒息事故の法的責任を問えるか否かは、介護施設側に注意義務違反が認められるか否かに左右されます。

そして、どのような注意義務が課せられているかは、事案の具体的な状況に応じ、裁判所によって、法的見地から判断されます。

したがって、法的責任を追及できるかどうかは、介護事故に関する過去の裁判例を十分に知り、経験豊富な弁護士に相談して的確なアドバイスを受けるべきです。

施設から治療費のみの支払いを提示された方、少額の慰謝料を提示された方、あるいは何も謝罪・解決提示がない方々など、多くの方々が、「このまま終わらせていいのだろうか」「当時すぐに連絡をくれなかった不信感が残る」等の理由でご相談いただいております。お困りの方は、西船橋ゴール法律事務所の弁護士までお気軽にご相談ください。

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