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デイサービスの送迎中に事故…介護施設に責任追及できる?

デイサービスの送迎中に事故…介護施設に責任追及できる?
弁護士 赤井 耕多

弁護士 赤井 耕多

千葉県弁護士会

この記事の執筆者:弁護士 赤井 耕多

誤嚥・転倒事故のご相談をきっかけに、7年前から介護事件に注力。全国的に、この分野に詳しい弁護士が少ないことを知り、誰かの助けになればとの思いで日々勉強中。現在、関東一円や、時には新潟からのご相談まで、幅広い地域をカバー。千葉医療問題研究会所属。

デイサービスでは、マイクロバスなどの車両による送迎が行われます。当然、送迎にあたっては施設職員による介助が行われるものですが、その際、利用者である高齢者・障がい者が次のような事故に遭う例があります。

  • 転倒して骨折した
  • 降ろし忘れで車内に閉じ込められてしまい熱中症で死亡した
  • 送迎中に交通事故にあって死傷した

通常、このようなケースでは、利用者や遺族は介護施設側に対し損害賠償を請求することが可能です。

1.送迎中の転倒事故

デイサービスの利用者は、加齢や障害により、車両の乗り降り・降車後の歩行などで転倒する危険があります。これを防止するために、職員による介助が行われます。
しかし、それでも事故が発生するケースは珍しくありません。

1-1.利用者から目を離して転倒する

特に、介助者が他の作業を行ったり、他の利用者を介助したりするために、利用者から目を離してしまった隙に転倒してしまったというケースは多くあります。

このような事案では、介護施設側には、「転倒して死傷する結果の予見可能性があり、常に目を離さないなどの注意をし、危険な結果を回避する義務」に違反した過失が認定され、債務不履行責任(民法415条)や不法行為責任(同709条)による損害賠償責任が認められます。

具体的な裁判例を紹介しましょう。

【目を離して転倒事故の裁判例①】
東京地裁平成15年3月20日判決・判例時報1840号20頁

職員が降車の踏み台を片付けるために目を離した隙に転倒した事案で、損害賠償が認められた裁判例です。
A医院(小規模精神科デイケア承認施設)の利用者B(78歳)は、デイケアを受けた医院から、介護士Cの運転する送迎バスで自宅マンション前まで送り届けられて降車しました。ところが、Cが踏み台を片付けるなどの作業のためBから目を離した間に、Bは路上で転倒して骨折し寝たきりとなり、142日間もの入院を余儀なくされた挙句、肺炎となって死亡しました。遺族がA医院に損害賠償を求めた事案です。

裁判所は、AB間には、デイケア及び送迎を受けるという契約が成立しており、A医院は送迎にあたっても、Bの生命身体の安全に配慮する義務を負っていたとしました。

そのうえで、①Bは自立歩行ができたが、転倒骨折しやすい身体状況であり、②事故現場は一部未舗装道路のため転倒の危険は予見可能で、③A医院は、CにBから目を離さないよう指導するか、さもなくば、送迎バスに複数の職員を配置するなどの転倒防止措置をとる義務があった、と指摘し、これを怠ったA医院の過失による債務不履行責任を認めました。

そして、被害者本人の慰謝料(入院慰謝料と死亡慰謝料の総額)1200万円を含む、合計約1700万円の損害を認定しました(※ただし、B自身にも不注意があったことなどから過失相殺として4割を控除し、さらに被害者の妻が受領する遺族年金の控除などの結果、最終的には約680万円の損害賠償)。

※参考文献:古笛恵子編著「介護事故の裁判と実務(施設・職員の責任と注意義務の判断基準)」ぎょうせい・227頁、347頁、373頁
※参考サイト「医療安全推進者ネットワーク」(日本医師会:医事法・医療安全課運営サイト)「医療判決紹介(2005年10月27日付掲載)」、No.56「医院でデイケアを受けていた高齢男性が送迎バスを降りた直後に転倒・骨折し、その後肺炎で死亡。医院を設置運営する医師に損害賠償義務を認める判決

【目を離して転倒事故の裁判例②】
東京地裁令和3年10月29日判決・LLI/DB・L07631168

職員が他の利用者の介助のために目を離した際に転倒した事案で損害賠償を命じた裁判例です。
夫婦ともに同じ指定通所介護施設を利用しているケースで、送迎職員が夫(91歳)に、車の近くで待機するよう伝えて妻の介助に向かったところ、夫が歩きだして転倒・骨折してしまいました。
裁判所は、夫には杖歩行でふらつきがあり、これまで3回も転倒していたことなどから、介護施設側には、夫に転倒の危険を十分説明し、付添なしでの歩行開始をやめるよう繰り返し注意喚起するなどの義務があったと認定し、その義務違反により、合計約202万円の賠償を命じました(過失相殺2割)。

1-2.自宅内まで付き添わなかったために庭等で転倒する

歩行が不安定な利用者の場合、家族としては、送迎に際し、職員に自宅の中まで歩行を介助し、連れてきてほしいと希望する場合があります。
ところが、職員が自宅の庭等まで連れてきただけで立ち去ってしまい、その後転倒してしまった場合、介護施設側に損害賠償を求めることはできるでしょうか?

この場合でも、「利用者が安定した歩行が難しい身体状態で転倒の危険があること(たとえば自宅の庭が平坦でなく敷石などにつまずく可能性があること)」「家族が自宅内までの介助を希望し、これを施設側に伝えていたこと」などの諸事情があれば、介護施設側が転倒の危険を予見することは可能であり、転倒の結果を回避するべく自宅内まで介助する義務が認定され、損害賠償責任が認められるでしょう。

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2.送迎車からの「降ろし忘れ」による熱中症

車両での送迎時に利用者を降車させることを失念してしまい、車内に取り残し閉じ込めてしまい、熱中症によって死亡させてしまうケースがあります。
高齢者・障がい者だけでなく、児童が被害者となった事案も顕著です。

2-1.降ろし忘れによる死亡等にも損害賠償請求が可能

自力では降車できない高齢者・障がい者が車内に取り残されてしまうと、熱中症で死亡してしまう危険があることは予見できますし、そのような結果を回避するために、介護施設側は、全員の降車を厳格に確認する義務があります。

これを尽くさない場合、通常は過失が認められ、刑事事件としては業務上過失致死傷罪が適用され、民事上も損害賠償責任が認められます。

2-2.降ろし忘れの実際の事件

降ろし忘れ事件の民事裁判例は、法律専門の刊行物や裁判所サイトからは発見できませんでしたので、報道されたり刑事裁判となったりしたケースを紹介します。

【事件1】
平成22(2010)年7月24日発生、千葉県木更津市の介護施設。被害者(81歳)が、約8時間、送迎車に取り残されて熱中症で死亡。同年12月10日、同施設の社長と運転手が書類送検と報道(福祉新聞2010年12月20日「車内で利用者が熱中症死 千葉◎施設社長ら書類送検」)

【事件2】
平成29(2017)年7月13日発生、埼玉県上尾市の障がい者支援施設。被害者(19歳)を、送迎車から降ろし忘れ、熱中症で死亡した事案で、職員らが有罪判決と報道(産経新聞2019年7月16日記事「『苦痛計り知れず』障がい者放置死、両被告に有罪判決」)

【事件3】
令和4(2022)年7月7日発生、兵庫県高砂市内のデイサービス事業所。被害者(90歳代)を送迎ワゴンから降ろし忘れて、夕方から翌朝まで車内に閉じ込めてしまい、脱水症状を生じさせたと報道(神戸新聞NEXT:2022年7月21日記事「90代女性を車に一夜放置・高砂のデイサービス・送迎車の運転手『自宅に送った』と思い込み施錠」)

2-3.降ろし忘れの頻発に対する行政の対応

行政は、このような降ろし忘れ事故の頻発を受け、送迎バスでは、①運転者以外の職員も同乗させ、②乗車・降車時に座席・人数の確認を実施し、その内容を職員間で共有することを求めています。
これは児童施設だけでなく、介護施設の送迎についても要求しています。

※令和3年8月25日・文部科学省、厚生労働省などからの事務連絡「保育所、幼稚園、認定こども園及び特別支援学校幼稚部における安全管理の徹底について

※:令和4年10月12日、文部科学省、厚生労働省などからの事務連絡「バス送迎に当たっての安全管理の徹底に関する緊急対策『こどものバス送迎・安全徹底プラン』について

※:令和4年10月13日、厚生労働省から各自治体の介護・障がい者福祉サービス管理部門に対しての事務連絡「介護サービス事業所等及び障害福祉サービス事業所等における車両による送迎に当たっての安全管理の徹底について

3.デイサービス送迎時の交通事故

デイサービスの送迎中に交通事故に遭い、利用者が死傷するケースもあります。

【報道された事例】
令和7(2025)年12月19日、千葉県東庄町で、デイサービスの送迎車が電柱に衝突し、乗車していたデイサービスの利用者である女性2名(いずれも90歳代)が死亡したと報道されています(日テレNEWS:2025年12月19日配信記事「デイサービスの送迎車が電柱に衝突 乗車していた90代の女性2人が死亡 千葉」※)

運転者が介護施設の職員である場合などには、介護施設に対し、使用者責任(民法715条)に基づく損害賠償を請求できます。
ただし、使用者責任を根拠とすると、被害者側が運転者の過失を立証する必要があります。

このような事例では、介護施設が車両の運行を管理・支配し、運行による利益を得る「運行供用者」として、自動車損害賠償保障法3条に基づく賠償責任を求めるべきです。

これを根拠とすると、介護施設側は、自己および運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったことなどの厳しい免責要件を立証しない限りは損害賠償責任を免れることはできませんので、被害者に有利です。

4.まとめ

デイサービスの送迎時に転倒・降ろし忘れ・交通事故などで、利用者が死傷するなどの損害を被った場合は、介護施設側に損害賠償を請求できます。

その際には、介護事件の解決に注力し、経験豊富な弁護士にご相談ください。