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寝たきりの家族が介護施設で事故にあった時の責任追及

寝たきりの家族が介護施設で事故にあった時の責任追及
弁護士 赤井 耕多

弁護士 赤井 耕多

千葉県弁護士会

この記事の執筆者:弁護士 赤井 耕多

誤嚥・転倒事故のご相談をきっかけに、6年前から介護事件に注力。全国的に、この分野に詳しい弁護士が少ないことを知り、誰かの助けになればとの思いで日々勉強中。現在、関東一円や、時には新潟からのご相談まで、幅広い地域をカバー。

介護施設の事故としては、利用者の転落・転倒事故が多くあります。
実は、そもそも歩行ができない、寝たきりの利用者の場合も、このような事故とは無縁ではありません。

では、寝たきりの利用者が介護施設で遭遇する事故とは、どのような内容で、また、その場合、利用者や家族は介護施設側に責任を追及できるのでしょうか?

1.  介護施設における寝たきり利用者の事故

介護施設において、寝たきりの利用者が遭遇する事故とは、どのようなものなのでしょうか?

1-1. 介護施設では骨折事故が一番多い

介護施設では、しばしば骨折事故が発生します。

実際、消費者庁消費者安全課の「事故情報データバンクシステム」で、「介護施設」をフリーワードとして検索しヒットした事故(合計1,560件)につき、その「傷病内容」別の集計をしてみると、「骨折」が794件(約50%)で、「擦過傷・挫傷・打撲傷」145件(約9%)を引き離し圧倒的な第一位です(2026年1月時点)。

1-2. 寝たきり利用者が骨折しやすい理由

このように、介護施設における事故は骨折事故が圧倒的に多いのは、その利用者の多くが高齢者であることからも容易に想像がつきます。
中でも、「寝たきり」状態の利用者は、骨折のリスクが高くなります

もともと高齢者は、骨粗鬆症の進行などで骨密度が低下しています。まして、寝たきり状態で、その期間が長引くほど、骨密度の低下は顕著となります。ごく平たく言えば、骨が弱く、折れやすくなっているのです。
加えて、拘縮、つまり関節の可動域が制限されている傾向にもあります。

このような状態では、骨のわずかな捻じれや、比較的軽い圧迫でも、骨折につながりやすいのです。

介護施設では、体位の変換・オムツの交換・車椅子からベッドへの移乗・清拭などの介助を実施します。そのような日常的なケアをしている最中でも、骨折事故が発生しやすいのです。

例えば、オムツを交換する際に、左右の脚に外力が加わるだけで、場合によっては大腿骨頸部の骨折といった重篤な事故が起きる場合も珍しくはありません。

2. 寝たきり利用者の事故での介護施設の法的責任

では、介護施設で、寝たきりの利用者が骨折などの事故に遭った場合、利用者本人やその家族は、介護施設に対して法的な責任を問うことができるのでしょうか?

2-1. 民事責任の根拠となるのは契約責任と不法行為責任

介護事故では、民法上の不法行為責任(民法709条)または債務不履行責任(民法415条)を根拠として、介護施設に損害賠償を請求することができます。

1 不法行為責任

不法行為責任は、故意過失によって他人に損害を与えた者に、損害を補う賠償責任を追わせる制度です(民法709条)。

介護施設職員の過失によって利用者が傷害・死亡といった損害を受けたときは、被害者・遺族は、その職員に対して治療費や慰謝料などの損害賠償を求めることができます。

またこの場合、雇用主である介護施設も、使用者責任(民法715条)として、職員と連帯して賠償責任を負担することになります。

2 債務不履行責任(契約責任)

介護施設と利用者または家族との間には、介護サービス契約が結ばれています。介護施設側は、この契約の内容として、利用者の生命身体に損害が生じないよう配慮するべき「安全配慮義務」を負っています。

そこで、利用者の怪我・死亡の場合、介護施設側に過失があるならば、安全配慮義務違反という介護施設の契約違反を理由として損害賠償を求めることができます(民法415条)。

介護施設側の責任が認められる場合には、①治療費(診療費、手術費、入院費、付添費、通院交通費など)、②入通院に対する慰謝料(傷害に対する慰謝料)、③後遺障害に対する慰謝料、④死亡に対する慰謝料、⑤死亡の場合の葬儀費用、⑥弁護士費用などの損害賠償が認められます。

2-2. 予見可能性、結果回避義務違反について

ただし、損害賠償請求が認められるためには、不法行為責任と債務不履行責任のいずれを法的な根拠とする場合であっても、利用者の死傷という損害が、介護施設側の故意・過失に基づいて発生したことが必要です。

通常、介護施設側が、①死傷結果の発生を予見できたか否か(予見可能性の有無)、②結果発生を避けるために為すべきことを尽くしたか否か(結果回避義務違反の有無)を巡って争われることになります。

利用者が寝たきり状態の場合は、利用者が自力で身体を動かして危険を避ける行動をとることは困難です。
反面、骨密度の低下によって、骨折の危険性はより高いものがあります。

介護施設側は、そのような身体状態であることを十分に認識して介護を引き受けているのですから、死傷結果についての予見可能性は認められやすいでしょう。

そして、介護施設側は、ベッドやストレッチャーからの転落を防止するよう、柵を設けるなどの措置を万全とするべきですし、関節を強く運動させることや、手足を圧迫すること、急激に姿勢を転換することなどは慎むべきです。
このような配慮を実施していないならば、死傷結果を回避する義務に違反しているというべきでしょう。

このような観点から、利用者が寝たきりの場合、予見可能性、結果回避義務違反のどちらについても、介護施設側の責任は比較的認められ易いと言えます。

3. 介護施設における寝たきり利用者の事故|実際の裁判例

では、介護施設における寝たきり利用者の事故について、実際の裁判例を紹介しましょう。

3-1. 安全ベルトの装着を怠った入浴介助で寝たきりの利用者が転落死

仙台地裁平成27年4月15日判決(LEX/DB掲載・同地裁平成26年(ワ)第721号事件)

デイサービスの利用者Aさんは、病気のため寝たきりで、自ら便意・尿意を訴えることもできず、オムツを使用しており、言葉を発して意思疎通を図ることもできない状態でした。

デイサービスの施設職員2名は、Aさんをストレッチャーに乗せて入浴サービスを実施していたところ、転落防止のサイドフェンスは立ててあったが安全ベルトを装着させていなかったなどのために、Aさんがストレッチャーから転落してしまいました。
救急搬送されましたが、同日中に死亡してしまいました。

この事案では、Aさんの身体状態からして、ストレッチャーから転落して死傷する結果の予見可能性には問題がなく、争われなかったようです。

裁判所は、介護施設側が、ストレッチャーからの転落防止に不可欠な安全ベルトの装着を職員に徹底させていなかった点に結果回避義務違反を認め、金2,000万円の慰謝料支払を命じました。

3-2. 訪問介護中に寝たきりの利用者がベッドから転落骨折

東京地裁平成20年1月25日判決(LLI/DB:L06330316)

訪問介護の事案です。寝たきり状態の利用者Bさん(90歳)宅へ派遣されたヘルパーが、用便の介助をした後に利用者を便座からベッドに移乗させて横たえさせたところ、利用者がベッドから転落し、左上腕骨折の傷害を負いました。

裁判所は、ヘルパーがベッド上に十分なスペースを取らず、柵も設置しないままで、利用者から目を離した点に過失があるとして、介護施設に慰謝料など約65万円の損害賠償を命じました。

3-3. 寝たきりの患者がベッド脇の窓から転落死

高知地裁平成7年3月28日判決(判例タイムズ881号183頁)

介護施設ではなく病院の事案です。下半身麻痺の患者Cさん(男性71歳)が、ベッド脇にあった窓から落下し、頭蓋骨骨折などで死亡しました。

この事案で、遺族側は、病院に対し土地工作物責任(民法717条1項)を根拠として、損害賠償を求めました。
これは、土地に設置された工作物(建物など)が、通常備えるべき安全性を欠き、人に損害を与える危険が現実化したときには、その占有者や所有者が損害賠償義務を負うという制度です。

裁判所は、「病院は、患者の生命身体の安全確保を図るべき義務があり、Cさんのように下半身麻痺で入院している患者の場合は、その使用するベッドは窓から離して配置するか、窓ないしベッドに手すりを設置するなどして、転落を防止する設備を整えるべきである」としました。

そして、そのような設備を備えていなかったことは、土地工作物の安全性を欠いていたと評価し、病院側の土地工作物責任に基づき、慰謝料など約3,600万円の損害賠償を命じました。

4. まとめ

介護施設等で寝たきりの利用者が事故にあった場合、介護施設に対して損害賠償を請求できる可能性があります。
当事者となってしまったご家族の方は、一度、弁護士にご相談されることをお勧めします。

お困りの方は、西船橋ゴール法律事務所の弁護士までお気軽にご相談ください。